選歌その16

  • 2014.04.08 Tuesday
  • 17:26
016:捜(TrackBack数1〜53)

■一緒だと良いなと思うたんぽぽの着地地点を捜すくせとか(中西なおみさん)

 近しいひとと何気ない所作が一緒であるというのは、ささやかながら充足感のある幸せです。その何気ない所作がありがちなものなら俗っぽくなってしまうところなのですが、たんぽぽの着地地点を捜すという風変わりで悠長なくせが、歌を引き立てています。また「良いなと思う」「とか」の、良い意味で軽い言い回しが、ポップで明るい風味をもたらし、未来さえ感じる歌に仕上がっている印象です。

■つきあったころに夢だと呼んでいたものを捜索しているところ(天国ななおさん)

 それぞれ時制を「つきあった(過去)」「呼んでいた(過去進行)」「捜索している(現在進行)」の三段階に分けることにより、グッと歌物語の奥行きが出ました。惰性ならともかく、好き同士でつきあう一組の男女は、永い会話のなかで、手を取り合い夢を追いかけるものなのかしれません。その夢というものは、つうと言えばかあの仲になることだったかしれないし、もっと具体を言えば結婚することだったかしれないけれど、今はただ失くしたものや果たせなかったものを求めるように捜索しているといいます。硬質な「捜索」という漢語が意味として遠く、そのことがまた、別れにともなう切なさや未練を読者の胸に滲ませます。

■所用ありて妻出掛けたる夜なれば酒のありかをまず捜しおり(西中眞二郎さん)

 古き良き日本の、伝統とでも言うべき夫婦のリアルな姿が描かれていて、好感です。永い歳月を共に経てきたことが窺えるんですよね。まずこの歌から読み取れるのは、どうやら「妻」が酒を家のどこかに隠したらしいということ。いろいろ理由はあるんでしょう。夫である主体の身体を思ってとか、夫の悪酔いに耐えられないとか、もしかすれば喧嘩して何かいじわるしてやろうという魂胆かしれませんが。夫は夫で、鬼の居ぬ間に何とやらと思っているかは知りませんが、とにかく妻が出掛けた隙に酒を“まず”捜すといいます。“まず”ということは“お次は”も勿論あるわけで、ここぞとばかりに寛ごうとする夫の心の解放が伝わります。スリルさえ酒の肴として楽しんでいるような。微笑ましいです。

■すぐに出るはずのデータを捜してる色分けしすぎた付箋の森に(由子さん)

 事務作業など、仕事のうえで必要なデータがあるのに、なかなか見つからないという情景。もしくは久しぶりに会った知人の名前が思い出せず、本人に確認するのも失礼な話なので、自力で思い出そうと頭をフル回転させているという情景。同窓会とかだと、わりと見られる姿なのかしれません。面白いのは、下句の喩です。あれもこれも重要なデータだからと付箋を貼りまくった結果、乱立したそれがまるで繁茂した樹々のように主体には映ったのでしょう。それを「付箋の森」と簡潔に、しかし得心のゆく喩にされたのは、技アリだと思いました。

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  • 2017.11.30 Thursday
  • 17:26
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    コメント
    ふたたびお邪魔致します。この度は私の良くない癖を、良い受け止めかたで読んで頂き恐縮しております。話口調に逃げてしまうのはいけない事と思ってはいるのですが、つい2語を疎かにしてしまうのです。なのに明るい未来と誉めて頂いてこの歌も救われました。選歌ありがとうございました。
    • 中西なおみ
    • 2014/04/24 8:35 AM
    >中西なおみさん

    こんにちは。

    自己満足でつらつらと綴っている拙文に、またコメントいただきまして誠にありがとうございます。

    御自分で「良くない癖」と仰いますが、この歌においてはそれが非常に効果的に働いたかなという見解のもとに、こんかい挙げさせていただきました。
    それが意識的にしろ無意識的にしろ、厳格な文語文体でガチガチに仕上げる歌風だった自分には、とても良い勉強となりました。
    歌世界の内容によって、文体の硬軟を臨機応変に変えてゆく自在さを手に入れたいと思いました。ありがとうございます。
    • @貴
    • 2014/05/02 10:39 AM
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